令和6年5月号会報「東基連」編集後記

まるでスローモーションのように、ゆっくりと時が流れる一瞬であった。四ツ谷駅から麹町駅方向に向かう新宿通り。お洒落な敷石が敷き詰められた歩道。右足の革靴のつま先が、敷石の僅かな段差に引っ掛かった。直ぐに左足を前に出そうとしたが、その左の革靴のつま先も同じ敷石の段差に引っ掛かり、両足が揃った状態で体が前のめりに。地面が目の前に近づいて来る。咄嗟に両手を前に出す。まず両膝が地面にぶつかる衝撃。続いて両手の掌(てのひら)がぶつかる。背負ったリュックサックが頭の上をゆっくりと1回転。体を前に投げ出す状態で倒れ込んだ。
傍らを歩いていた若い女性が「大丈夫ですか!」と駆け寄る。リュックサックが頭に乗り、その重みで立てない。彼女の助けを借りて、ようやく立ち上がることができた。お礼を述べながら段差を見ると、1ミリも無い。人は段差が無くても転ぶというが、本当だった。 
この転倒で、高年齢者となった自身の身体能力の低下を実感した。これまでは青・壮年期の労働者を対象とした安全衛生対策であった。しかし、高年齢労働者の増加によって、幅広い年齢層を対象とした『フレンドリー』な対策が喫緊の課題と痛感した。そう、段差が無くても人は転ぶ。
東京労働局の「令和6年度の主な重点施策」をまとめた、「東京の労働行政Profile2024」。その冒頭には、「安心して働き活躍できるTOKYOへ」とのスローガン。この「TOKYO」とは、「安心して働き活躍できる職場の集合体」でもあろう。このスローガンが示されて1か月が経過した今、「Profile2024」のページを捲りながら、我が職場を見つめ直す機会を設けてはどうだろうか。
転倒防止のみならず、全ての分野にわたり、意識と設備の双方の改革に挑む令和6年度でありたい。 
(小太郎)