若い頃に痛めた右膝の古傷が、この冬の寒さのせいか痛み出した。気付いた家族が心配して杖を用意。まだ杖を使う歳でもあるまいと思ったが、これが殊のほか調子が良い。膝への負担を減らしてくれるだけでなく、歩行時の安定感が倍増。これこそが労働安全衛生でいう補助機器の導入かと得心した。
それはさておき、杖を使うようになって、周囲の人々の温かさを改めて感じるようになった。建物へ入る時など、前の人がさりげなくドアを押さえ待っていてくださる。エレベーターの乗降でも、私を最優先にとの同乗の方の配慮が窺える。街並みを歩む際も、追い抜いていく人々から、私への気遣いが感じられる。そう、杖を目にした時、人々の内面から優しさと労(いたわ)りの思いが放たれ、その思いが私を包み込んでいくかのよう。
改正労働安全衛生法第62条の2に基づく「高年齢者の労働災害防止のための指針」が令和8年4月1日から施行される。事業者に努力義務を課すこの指針については、本号の「桃樹の『労務・安全衛生深掘り探訪記』」で詳述したが、高年齢者の特性に配慮した作業環境の整備等が求められる。
その背景には、「高齢社会対策要綱(令和6年9月13日閣議決定)」で指摘された「年齢に関わらず、それぞれの意欲や能力に応じて(中略)その能力を十分に発揮できる環境を創っていく重要性がますます高まっている」との考え方がある。高年齢者に対する様々な施策が展開されるが、その基底部には高年齢者を守ろうとの思いがあろう。
電車に乗ると、杖に気付いた人がさっと席を譲ってくださる。一旦は断るが、ご厚意に甘えさせて頂くことも。ある時など外国人の青年が席を立つと同時に隣席の青年も立ち上がり、二人が私に座るようにと。席を譲ってくださったある女性は、電車を降りる際に「お大事にしてください」と。私達は周囲の人を思い、そして思われる世界に生きている。
(小太郎)№50




























