桃狩りのお誘いの便りが届いた。「夏の良き日を選んでいらっしゃいませんか」と。生まれて始めて体験した、昨夏の桃狩りの記憶が鮮やかに蘇る。
甲府盆地を囲む雄大な山々を背景に、濃緑の葉を茂らせる桃の樹。その葉の間から見え隠れする大ぶりな桃の実。赤やピンクに色づいた桃が微風に揺れる。ドキドキしながら顔を近づけると甘い香り。そっと桃に触れると思ったより硬い感触。「硬いのが美味しいんですよ」との声に押されるように、ゆっくりと実をもぎ取る。瑞々しい大きな桃の実が、両の掌(てのひら)にずっしりと。
日陰のテントに入ると、爽やかな風が吹き抜ける。テーブルには冷やした桃が。口に含むとひときわ強い甘みが広がり、遠い昔の幼い時の記憶が浮かんできた。建設会社の現場監督を長年務めていた父。単身赴任が多かった父の帰宅は年に数回。ある時の父の土産は桃の缶詰。そう「桃缶」。ワクワクしながら弟と共に、ガラス器に盛られた甘い桃に手を伸ばした。
6月は「全国安全週間準備期間」。無事故・無災害の実現のために、多くの企業・団体が取り組みを加速している。その中でも「熱中症防止対策」は重要なポイント。夏を目前にし、本号の「桃樹の『労務・安全衛生深堀り探訪記』」では、新たに策定された「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を取り上げた。どの職場も熱中症対策には余念が無いだろうが、この夏の暑さには心して立ち向かいたい。
労働安全衛生の傍らに立つ仕事に就き、幾つもの現場に伺った。その度に、建設現場で働いていた父を思った。父にも危険な瞬間は、何度も訪れたことだろう。働く誰もが、何事もなく家路につく日々であることを切に願う。無事に帰宅することを祈り、待っている人がいる。それは確かな事実だから。
今年の「父の日」は6月21日。この夜ばかりは、今は亡き父と差し向かい、一献傾けることとしよう。冷やした「桃缶」の桃を味わいながら。
(小太郎)№53
※写真は、「AZ Misaka Farm」(山梨県笛吹市御坂町)から。

































