令和6年1月号会報「東基連」編集後記

本誌の1月号は、毎年、富士の雄姿が表紙を飾ってきた。今年も、清新な気持ちを呼び起こす凛然たる富士の姿。編集を担当する職員が、自ら富士五湖周辺に足を運び撮影したもの。満足のいく瞬間に出会えるまで、数回にわたり訪れた年も。年の初めとなるこの佳き時、本誌を手に取る方々が、期待を胸に1年の歩みを開始されますようにとの願いを込めて。
通勤途上。ふと顔を上げると、澄み切った冬空の彼方に、白く輝く富士の姿が。迫り来る富士の出現に思わず息をのむ。古来、富士の別名は多い。「不二」「不尽」。また「芙蓉」「富嶽」。いずれにせよ、その優美な姿は長年にわたり、多くの人々に希望を与え、励まし続けてきたとも言えよう。
厚生労働省は、昨年の10月に「新しい時代の働き方に関する研究会報告書」を公表した。新しい時代を見据えた、労働基準関係法制度の課題を整理することを目的とした検討結果の公表。この報告書の最終章のタイトルは、「未来を担う全ての方へ」。その中に心に留まる一節があった。「誰もが『人生の主人公』として自発的にキャリアを形成し、『働くこと』に希望や期待を持てる環境を、働く人だけでなく、企業、社会、国が協働して創り上げていくことが、今まさに求められている。」と。
未来の人たちも、富士を見上げるのだろう。そして、玲瓏たる富士の姿から希望と期待を受け取るのだろう。その未来の人たちに、未来の何処かの地点で言って貰えるだろうか。「振り返れば、誰もが人生の主人公として、働くことに希望や期待を持てる環境を、人々が創りあげていったのは、あの頃からだった」と。
厳寒のなか、富士を撮影する職員の姿に学び、今まさに求められていることを、自身のできることから始める1年としたい。
(小太郎)

令和5年12月号会報「東基連」編集後記

居心地の良いうどん屋さんに出会った。店名に「串焼き」ともあり、夜は居酒屋に。しかし、ご主人が工夫する多彩な創作「肉汁うどん」が評判を呼び、いつしか老若男女が集う大人気店に。この店に入るだけでホッとする不思議さ。そして、私の一番の推しは「炙り鶏の柚子塩つけうどん」。これが美味しい。
しかし、旨いからと言って居心地の良い店とは限らない。いつも笑顔で、さり気なくお客さんの気持ちを掬い取る女将さん。顔は怖いが腕は確かで、訪れた客の好みを決して忘れないご主人。明るく気が利くスタッフ達。それらが渾然一体となり醸し出される、配慮に満ちた温かな雰囲気。これが居心地が良いと感じる理由であろうか。
ある上司から「人を『励ます』とは、その人に『自信を持たせること』。」と教えられた。自信を持たせるとは、「相手が本来持っている力を見つけ引き出すこと」とも。それは、相手をよく知ろうとするところから始まるのだろう。その人の話に耳を傾け、受け入れ、その通りだと共感する。そして、見えて来た本来持っている力の可能性を最大限に評価する。冒頭に紹介したうどん屋さんの「居心地の良さ」にも相通じる、配慮に満ちた信頼関係は周囲へも波及していくに違いない。
年頭の「編集後記」に、本年の歩みを開始するにあたり「会員の方々に必要とされるものを先駆けてお届けすることを心に定め」と記した。
この約束を果たすために、職員一同が懸命に駆け抜けた一年であったように感じる。これを更に確かなものとするためにも、職員を始め係わる人たちが居心地の良さを感じる職場であり続けたい。
今年もあと僅か。もうひと踏ん張りし、暮れには、居心地の良いうどん屋さんに年越し蕎麦ならぬ、年越しうどんを食べに行こう。オーダーは、「炙り鶏の柚子塩つけうどん」で。
(小太郎)

令和5年11月号会報「東基連」編集後記

先日、卒業45周年を記念する高校の同窓会が母校で開催された。5年毎の旧友たちとの出会い。前回との大きな違いに驚いた。それは、肥満体型仲間の激減。私と同様のお腹ポッコリは僅か2名に。悪友たちは、内科医を務める同期生の前に私を連れて行きアドバイスをと。「皆、どうして瘦せたのだろう」と訝る私。彼は「小太郎は大病をしていないだろう」と一言。確かにここまで、大きな病気を患ったことはない。彼は言葉を重ねた。「みんなは、大病を経験したんだよ。病と向き合い、真剣に体調管理に努めてきた。その結果だよ」と。
人生において、年齢に関係なく病気は襲ってくる。厚生労働省は「事業場における治療と仕事の両立支援ガイドライン」で、主治医や産業医等の意見を勘案し、配置転換、作業時間の短縮、その他の必要な措置を講じ、就業の機会を失わせないよう留意することを事業者に求めている。更に入院等による休業を要しない場合、要する場合について、「両立支援プラン」の策定等、それぞれ配慮すべき事項を示している。
「幸福の第1条件は健康である」と。その上で「病気になることが不幸なのではなく、病苦に負けてしまうことが不幸なのである」とも。病苦に負けぬ為に、職場を始め周囲の人々の配慮と励ましが支えとなる。寄り添われ、励まされることによって、人は立ち上がることができるのだから。
今回の同窓会。欠席者からのメッセージも読み上げられた。その中で幾人ものメンバーが、闘病中であること、入院加療中であることを明かし、病を克服し5年後の集いに参加することを約した。今、彼らの快復と皆の健康を真剣に祈っている。
さて、このお腹ポッコリをシュッ!とした体型に変え、5年後には旧友たちをあっと言わせるミッションを開始しよう。いや、開始する!
(小太郎)

令和5年10月号会報「東基連」編集後記

薄の穂が膨らみ、艶やかに輝く栗が店先に出回る季節を迎えた。栗と言えば「ごんぎつね」を思い出す。昭和7年、児童文学作家の新美南吉が18歳の時に雑誌「赤い鳥」に発表した「ごんぎつね」。小学校の国語の教科書にも採用されており、懐かしく思い出す人も多いに違いない。
一人ぼっちの悪戯好きの小狐ごんは、兵十が川で捕った鰻や魚を逃がしてしまう。10日ほど経って、兵十の母の葬列に出会ったごん。自分が逃がした鰻は兵十の母が食べたいと願い、それに応えようと兵十が捕った鰻であると思い、「あんな悪戯をしなければ良かった」と後悔する。そして、栗を拾って兵十の家に毎日届けるように。自分と同じく一人ぼっちになった兵十に自らを重ね、寄り添おうとするごんの姿が健気でいじらしい。
秋、野山から贈られる宝物は幾つもある。岐阜県西濃地域に住む先輩から、名産の富有柿が届くようになって久しい。何十年も前に初任地で出会い、お世話になった先輩。今も変わらず、真摯に真剣に生き抜く姿に勇気を頂いている。
北信濃への赴任経験を持つ知人から、長野県の友人から頂いたという小布施の栗のお裾分が。「たった2年間、職場を共にした関係だが、生涯の友を得た」と。「贈られた栗は、何よりも甘く、元気が出る」とも。
人との出会いを大切にしたい。職場であれ地域であれ、短い期間であったとしても、共に過ごす時間の中で理解し励まし合う関係へ。大切なのは相手を思う真心と、それを行動で示すこと。そう、ごんが届けたのは栗だけではない。 
(小太郎) 

令和5年9月号会報「東基連」編集後記


「働き方改革の推進」を冠に掲げた「建設工事関係者連絡会議」が、立川労働基準監督署の主催で7月の末に開催された。今までも、労働災害防止を目的とする「公共工事発注者会議」は行われていた。しかし、今回の会議は「働き方改革の推進」を主眼として実施する東京労働局管内では初の試み。立川署管内の各地方自治体等の21の担当部署から、建設施工業者の長時間労働抑制に繋がる発注者としての好事例が紹介された。国土交通省や東京都からは、デジタル技術を活用した取り組み事例も。
この試みの背景には、2024年問題とも言われる「建設事業」「自動車運転の業務」「医師」の3つの事業・業務への、「時間外労働の上限規制の適用」が来年4月に迫っていることがある。事業者単独の努力で乗り越えられる課題ではないことは、社会的にも広く認知されてきた。労働人口の減少も背景に、長時間労働の抑制には、発注者側の適正な工期・単価等の設定が必須であると。
しかし、事業者、発注者の対応だけで解決できる問題ではない。食料品を始め私達が手にする殆どの物は、物流事業者が運んでいる。運ぶ道路や橋脚等を維持し、修繕しているのは建設事業者である。全ての事象が複雑に絡み合い、支え合っている私達の社会。他者の時間外労働の抑制が自身の痛みに繋がる場合もあり、多くの理解と共感が何よりも必要とされている所以である。
働き方改革関連法が明らかになった時、「過労死等認定基準で示された時間数以上の時間外労働が認められなくなった」と思ったことを覚えている。社会の発展、人々の幸福の為に働く人が、長時間労働で健康を害して良い訳がない。
故事に「胸中(きょうちゅう)に成竹(せいちく)あり」とある。竹の絵を描くには、まず胸中に竹の姿を思い描くこと。適用まで、あと7か月となった。私も長時間労働が抑制された身近な社会を胸中に思い描き、今いるこの場でその絵を描く一人でありたい。
                            
小太郎

令和5年8月号会報「東基連」編集後記

思わず心の中で「上手い! 座布団1枚あげてください!」と叫んでしまいました。東京労働局健康課が音頭を取って始めた、「Cool work TOKYO」ロゴマークのことです。東京労働局としては、5月から9月までの間、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」の取組を推進していますが、新たな取り組みとして「Cool work TOKYO ロゴマーク」を作成。
街中でよく見かける「Safe Work TOKYO」のロゴマークはお馴染みですが、それを捩(もじ)った「Cool work TOKYO」。HPには「クールワークキャンペーンの名称とSafe Work TOKYOロゴマークを融合し、涼しげな水色でデザイン」と。このロゴマークはHPからもダウンロードができ、既に幾つかの建設会社では看板やヘルメットに活用。東京労働局健康課のアイデアに拍手です。
アイデアと言えば、夏になると埼玉県熊谷市の老舗蕎麦屋さんでは、カレーで暑さを乗り切ろうと、「ツタンカㇾー麺」が登場。エジプトのファラオ「ツタンカーメン」を捩(もじ)ったカレーうどん。やや細めの熊谷うどんをスパイスの効いた熱いカレール―が包み込み、表面には正四角推のピラミッドが鎮座。このピラミッド、実はさつま揚げ。食べ進むと傾きます。「暑いぞ!熊谷」のコピーで知られる熊谷市。平成19年に日本最高気温を計測したことを契機に「熱中症から市民を守る」と、沢山のアイデアをもとに暑さ対策、熱中症対策に取り組んでいるそうです。
熱中症対策として、ミスト噴霧による気化熱を利用した冷却システムや、ファン付き作業着など新たな工夫が多く活用されています。この夏は、各企業・団体ともアイデアを凝らし工夫に富んだ「我が社の熱中症対策」を。さあ、涼しげな「Cool work TOKYO ロゴマーク」を先頭に、Coolな職場環境を目指しましょう。
小太郎

令和5年7月号会報「東基連」編集後記

国立競技場で行われた「ジャパンラグビーリーグワン2022‐23」決勝。「クボタスピアーズ船橋・東京ベイ」が、ディフェンディングチャンピオンである「埼玉パナソニックワイルドナイツ」に勝利し、悲願の初優勝を果たしたことは記憶に新しい。
試合は「スピアーズ」がペナルティーゴールで先制。その後も得点を重ね、9-3で前半終了。後半、12-3と得点差を広げられた「ワイルドナイツ」が連続トライで逆転。逆に12-15とリード。しかし、最後まで諦めない「スピアーズ」が、後半29分にキックパスからトライ。17-15と再逆転。そのままの点差で試合終了。テレビでの視聴だったが、緊迫感のある攻防に、まさに手に汗握る、釘付けとなる80分間だった。
ラグビー憲章に掲げられる5つのコアバリュー。「品位」「情熱」「結束」「規律」「尊重」。この5つの言葉は、選手、指導者、フアンなどラグビーに関わる全ての人々に共有してほしい価値観とされている。5つに触れる紙幅は無いが、最後に置かれた「尊重」については、「チームメイト、相手、レフリー、および、ラクビ―に関わる人々を尊重することは、最も優先すべきことである」と。自分がトライしたケース。そのトライは自分の力だけでなく、仲間の努力が結集したものだから。
ここで「最も優先すべきこと」として、関わる人々を「尊重する」ことを挙げていることに敬意を表したい。私の職場にも多くの職員がいる。立場・職名は様々であるが、それは単に業務遂行における役割分担を示したもの。「スピアーズ」と「ワイルドナイツ」の決勝の80分間。あの試合のように、的確なキックでエリアを奪い、ペナルティーゴールを成功させ、繋いだパスからトライを目指す、互いに尊重する仲間の努力が結集する我が職場でありたい。 
小太郎

令和5年6月号会報「東基連」編集後記

上司から渡された紙片は、私と同年輩の女性が投稿した新聞記事の切り抜きだった。8年前の4月、息子さんを突然の事故で亡くされた。事故の原因は書かれていなかったが、桜散る季節のなか、意識不明の状態が2週間続き、桜が散った後、静かに23年の生涯を終えたと。「物言わぬ息子の顔をじっと見る。もう涙は枯れ果てていた」とも。そして、文章の最後は、「息子が見られなかったものを、この目で見るために、まだまだ生き続けるつもりだ」と結ばれていた。
ある製造工場の安全パトロールに同行した際のこと。年輩の社員が若いメンバーに対し、危険個所を覆うカバーの不備を強く指摘する場面に出会った。「巻き込まれたらどうなる。お前の指は、手は、身体は、お前だけの物じゃないんだぞ」。危険から命を守る場に、「真剣」以外の言葉は不要である。年配の社員の厳しい口調からは、仲間を守らんとする強い意志が伝わってきた。
「労働災害は、不安全な状態と不安全な行動が交差する時に発生する」と言われている。そして「人間はミスをする生き物である」とも。そうすると、災害が発生する可能性が無い職場は存在しないことになる。業種・職種を問わず、どの職場でも起こり得ると。しかし、それでも私達は労働災害の防止に挑む。
14次防がスタートし、安全週間準備期間も始まった。行政機関、関係団体、そして企業等の関係者は、改めて強く決意したい。「死亡事故・重大災害は絶対に起こさない」と。来年の、そしてその先の未来の、桜が咲き舞い散る光景を、輝く新緑の風景を、共に見るために。
小太郎
※文中「新聞記事」:令和5年4月13日付け 朝日新聞 朝刊「ひととき」欄・「桜散る季節に」

令和5年5月号会報「東基連」編集後記

小学校の3年生か4年生の時。2歳違いの弟と一緒に「肩たたき券」を作った。弟は鉛筆を握りしめ、平仮名で「かたたたきけん」と書いた。母の誕生日だったのか、それさえも覚えていない。ただ、二人で渡したその贈り物に、驚き、喜んだ母の笑顔は、今も鮮やかな記憶として蘇る。
長じて自分が親の立場になると、親が子供を心配する気持ちは、言葉に出来ないほど切ないものであることを知る。仕事に出た息子の帰りが遅くなった夜、「何かあったのかしら」と不安気に呟く妻の姿。その呟きは、息子が帰宅するまで何度となく続いた。息子が20歳代後半となり、帰りが遅いと親が心配する歳をとうに過ぎても、呟く妻の姿は変わらない。
ある企業の人事担当役員のこの言葉は、多くの人の心に残っている。「全ての社員が家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さんであり、お母さんだ。そんな人たちを職場のハラスメントなんかでうつに至らしめたり苦しめたりしていいわけがないだろう」(2012年1月30日:厚生労働省:職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ「報告」)。
「自慢の娘であり、息子であり」との一節。ここには父母の眼差しがある。労働契約関係を別の角度から見れば、働く全ての人は、親御さんから預かった大切な娘であり息子であると。その父母の思いに応えるためには、安心できる安全で快適な職場環境が求められる。
5月の第2日曜日の「母の日」。今年は5月14日。この時ばかりは子供に戻り、今は亡き母へ贈る「母の日」の贈り物を用意しよう。その中に、自分らしく働く、ありのままの私自身を加えたい。手作りの「肩たたき券」を、あれほどまでに喜んでくれた母は、どんな私でも喜んでくれるに違いない。
小太郎

令和5年4月号会報「東基連」編集後記


飛花落花の花吹雪。その数日後、桜の樹の下に佇むと、「桜、蘂降る」光景に出会う。「さくら、しべふる」と読む春の季語。桜の花弁が散った後に、蕚が雄蘂雌蘂と共に枝を離れ落下する様を表している。人は、蕚や蘂が降る様子にはなかなか気が付かない。樹の周囲に蕚達が薄い紅色の絨毯を描く姿を見て、桜への思いを新たにする。
この春、4月1日に、当連合会の三多摩地域4支部が運営する「東基連 たま研修センター」(立川市)がオープンした。東の「安全衛生研修センター」(江戸川区)と並び、安衛法に定める技能講習等を実施する西の拠点として、新たな学びの場となる。
作業主任者技能講習の会場で、高齢の受講者と語り合う機会を得た。「資格を持っている奴が突然辞めて、困った社長に頼まれて来たんだ。家でテキストを読んでいたら、小学生の孫娘が『爺じもテスト? 頑張ってね!』と。孫娘と約束した以上、落ちる訳にはいかなくなった」と笑う。「勉学は光であり」とは、古代ギリシャの哲学者ソクラテスの言葉。学問は人生を照らし切り拓く光であり、年齢は関係ない。「学は光」と。
職場には、いぶし銀に輝き、活躍を続けるシニア世代の先輩達が幾人もいる。共通しているのは、学ぶ姿勢を貫いていること。その先輩達や、孫娘に合格を約束した人生の先達に連なり、学ぶ努力を惜しまぬ日々を送りたい。
「東基連 たま研修センター」近くの国営昭和記念公園では、今、「桜、蘂降る」光景が広がっている。紅色の絨毯が春の陽光に輝き、学ぶ受講者生を応援しているかのようだ。
小太郎

令和5年3月号会報「東基連」編集後記

この一年間、「新人」という立場にいた貴方。今、どんな思いで、四月を迎えようとしているだろうか。コロナ禍での勤務には、常にも増して様々な困難があったことだろう。思い通りにいかない仕事に地団駄を踏んだことも。悔しい気持ちと涙を抑え、我武者羅に走り回ったことも。そして、再びの春を迎えようとしている。貴方は気が付いていないかもしれないが、周りの人たちは貴方の成長に祝福のエールを贈っている。
一人残らず、誰もが新人の時期を経験している。懐かしい思い出と振り返る人もいれば、辛く苦しい事しか思い浮かばない人もいるかもしれない。ただ、あの時、初々しい決意を抱き、武者震いをしながら、走り出した私達が確かにいた。そして、周囲にはそれを見守る人々がいた。
私の初任地は、知る人もいない初めて赴いた街だった。もとより力も無く、何も出来ない1年生の私。次第に元気を失う私を、上司はある言葉を示し抱きかかえるように激励してくれた。「大丈夫だ。先ず、やる!と決めるんだ。やると決意さえすれば、もう半分は出来たようなもんだ」。その励ましだけを頼りに、目の前の課題にぶつかっていった。
桜の開花情報のニュースが流れ始めた。まもなく、次の新人達との出会いを迎える。希望と期待、不安に満ちたその姿は、一年前の貴方、そしてあの時の私達だ。自身の新人時代を思い起こしながら、大切な彼らを温かく迎え入れたい。
「自分の心に固く決意すれば、目的は既に半分達成されたも同然だ。」(エイブラハム・リンカーン)
小太郎

令和5年2月号会報「東基連」編集後記

厳寒の二月を迎えた。吐く息も白い朝の通勤路。ビルの地下駐車場入口に立つ警備員さん。その明るく丁寧な朝の挨拶が、凍えた気持ちを温めてくれる。警備員さんは人の流れを注視しながら、車両の誘導を。この人達がいればこそ、安全で円滑な通行が保たれる。社会では多くの方々が、人々の安全と健康を守るために懸命に尽力されている。
まもなく、厚生労働省から「第14次労働災害防止計画」が公表される。労働者の命を守るとの労働安全衛生法の理念を体現する、これからの5年間の羅針盤。そして、この羅針盤を持ち運用するのは、各企業等の安全衛生担当者。勿論、担当者だけで出来ることではない。係わる全ての人の力が求められよう。
労働相談業務を担当する旧知の友人は、「労働相談の現場は、ハラスメントの悩みで溢れ返っている」と語る。ここでも、人の命を守るため、長時間労働の解消等を含め、ハラスメント等に対する、迅速にして適正な労務管理の運営が求められている。
ある先輩から「労務管理、安全衛生管理は、人の命を守る仕事だ」と教えられた。「人の命を守る仕事に携われることが、何よりの誇りだ」とも。この言葉を敷衍(ふえん)すれば、現場を含め係わる全ての人々が、「人の命を守る仕事」に携わっていることになる。
職場では様々な人が働いている。中には、慣れぬ業務に苦労している人もいるだろう。しかし、「期待されている、信頼されていると感じた時に、人は大きく力を発揮する」と言われている。自身の来し方を振り返ってみても、その通りだと思う。職場の一人一人が、それぞれの持つ可能性を信じ、互いに声を掛け合う。そこに、「人の命を守る」労務管理・安全衛生管理の、最初の一歩があることを信じて。
小太郎