令和6年2月号会報「東基連」編集後記

アルバムから古い写真を探し出した。30数年前の長男の誕生日祝い。ようやく立ち歩き始めた1歳になる彼。祖父母から贈られた丸い一升餅を風呂敷で背負い、満面の笑みを浮かべ、覚束(おぼつか)ない足取りながら、嬉しそうに一歩二歩と。このあと、尻もちをつき、泣き出したのはご愛敬。
地域によって形は違うが、「一升餅」「背負餅」等と呼ばれる、満1歳になる赤ちゃんの成長を祝う伝統行事。風呂敷などに一升(約1.8キロ)の餅を包み、子供に背負わせて歩かせ、子供の一生の幸せを願うもの。「一升」と「一生」をかけ、「一生食べ物に困りませんように」との願いを込め。また、一升餅の丸く平たい形には「一生円満に過ごせますように」との思いが。
最近、「心理的安全性(psychological safety)」という言葉をよく耳にする。その意味は「組織やチームのなかで、誰もが率直に、思ったことを言い合える状態」と。ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が発表。その後、Googleが「心理的安全性が高い組織ほど、パフォーマンスが向上する」との調査結果を公表し注目を集めた。
詳しい説明は専門家の著述に委ねるが、健全な意見の衝突がチームの活性化を促すのは確かであろう。そして、メンバー間の深い信頼関係。仲間の成長と幸福を願う気持ちが満ちている組織。そこにこそ、高い生産性が生まれることを立証したものであろうか。
一升餅を背負った長男は30歳代の後半に足を踏み入れ、厳しい社会の真っただ中にいる。長男だけでなく、多くの人があの時のように、尻もちをつき、転び、立つのも難しい日々を送っているかもしれない。しかし、誰もが迎えた1歳の誕生日。あの日、あなたを囲み、あなたを見守った人々の思いは今も変わらない。一人ではない。
間もなく、彼の息子が1歳の誕生日を迎える。私と妻から、一升餅を贈らせて貰おう。「一生食べ物に困りませんように」「一生円満に過ごせますように」との願いを込めて。
(小太郎)