令和6年3月号会報「東基連」編集後記

「いちご狩り」に夢中になるとは思いもしなかった。昭和30年代生まれの私。子供の頃はもとより、成人した後になっても「いちご狩り」の経験は全く無かった。その言葉は知っていたが、どこか遠い世界のお伽話。男の行く場所ではないとも。妻に誘われても、首を縦に振らなかったのは、つまらない男の沽券の故か。
転機は、思いがけないところから訪れた。大正生まれの岳父が「一度、いちご狩りと云うものに行ってみたい」と。嬉々として準備する妻。引き摺られるように向かった、初めての観光いちご農園。30分食べ放題でこのお値段。少々お高いと感じた気持ちは、大粒の「とちおとめ」を口に運んだ瞬間、消え去った。
円錐形で濃く鮮やかな赤色。強い甘みに程よい酸味。果汁たっぷりの果肉。次から次へと手が伸びる。この列は「やよいひめ」、あちらは「章姫(あきひめ)」、「紅(べに)ほっぺ」と。まるで子供のような自分。しかも止まらない。男の沽券は吹き飛んだ。
先月、東基連・中央支部が「女性活躍推進セミナー2023」を開催。清水建設(株)・西岡真帆DE&I推進部長と、東京労働局・横山ちひろ総括指導官からご講演を頂いた。「ダイバーシティ(多様な属性の個人が認められて参画できる環境)」と「インクルージョン(全ての従業員が互いに尊重され、能力を十分に発揮できている状態)」。この二つは不可分な関係にあり、誰もが働きやすい環境を目指していく中で、最重要事項であることを、お二人の講演を聞きながら改めて実感した。
個人の能力を最大限に引き出す鍵も、ここにある。社会は多様な属性を持つ人々から構成されている。その中で、互いの尊重を妨げる要因に根拠の無い思い込みがあろう。数十年にわたり「いちご狩り」を拒否していた私もまた、勝手な思い込みから素敵な機会を逃していた。
さあ、3月は苺の旬。「いちご狩り未体験」のご同輩。このシーズンこそ、騙されたと思って、一度「いちご狩り」に出掛けてみませんか。
(小太郎)