令和7年11月号会報「東基連」編集後記

後輩や部下の面倒見が良く、洞察力、判断力、実行力に秀で、職場の中軸を担っていたある先輩。定期異動で別の部署になり半年余り。その先輩がメンタル不調となり病気休職に入ったとの知らせは、皆から驚きを持って受け止められた。理由ははっきりしなかったが、異動先の職場で上司の分も含め二人分三人分の業務をこなしていた、との話は伝わってきた。
翌年度、復職した先輩に会う機会があった。先輩はこう語った。「あの日の朝、出勤しようと自宅の玄関に立ち、ドアノブに手を掛けた。しかし、そこから一歩も前に進むことが出来なかった。行こうと思うのだが、足が前に動かない。自分でも訳が分からなかった。信じられないと思うが、本当のことだ。」
令和7年5月14日、改正労働安全衛生法が公布された。改正の一つに「50人未満の事業場でのストレスチェックの義務化」がある。施行は「公布後3年以内」と。背景には、精神障害の労災支給件数が883件(令和5年度)と過去最高になり、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業又は退職した労働者がいる事業場割合が1割を超えている現状がある。
ストレスチェック制度については、今月号の「桃樹の労務安全衛生深掘り探訪記」に詳述したが、まず自分のストレスがどのような状態にあるのか気付きを促すところから始まる。忙しい日々ではあるが、一度立ち止まり、自分を見つめ直す機会を持つ。そして医師の面接指導を通しながら就業状況を改善していく。ある人は「ストレスチェックは『心の定期健康診断』です」と。
先輩がメンタル不調から病気休職となった時代には、このような制度は無かった。あの時に運用されていればとの思いは禁じ得ない。どんな仕事も、社会の安定と幸福に繋がっている。社会の為に尽力する人が、そのために自身の健康を害して良い理由は、どこにも存在しない。施行まで、あと2年半。既に実施している職場も、これからの職場も、一人ひとりが自身の力を更に発揮できる職場環境を目指し、取り組んでいきたい。
(小太郎)