令和4年6月号会報「東基連」雑感

楽屋話を少々披露することを、お許し頂きたい。
当連合会(公益社団法人東京労働基準協会連合会)が、令和3年度に厚生労働省から委託された「外国人労働者安全管理支援事業」の一つに、外国人労働者を雇用する事業者のための、外国人労働者の安全衛生管理の参考となる手引書の作成があった。
作成に当たり、外国人労働者の安全衛生管理について造詣の深い有識者による検討委員会を設け、現在の外国人労働者の安全衛生に係る問題点を様々な角度から掘り下げた。
一般的には大きな課題として、日本語に未習熟であることによるコミュニケーション不足と、技能が未熟練であることが挙げられていると。
しかし、むしろ雇用する側に日本語が未習熟な外国人労働者へのアプローチの仕方、文化の違いに対する理解が不足しているとともに、未熟練な外国人労働者に対する教育手法・体制が未整備であることも一因となっていることが指摘された。
こうした課題を念頭に、ワーキンググループでは、これまでに実施されてきた様々な調査結果から現状を掘り下げ、手掛かりを探り、教育教材・外部教育機関の所在情報を多く盛り込み、「日常的な安全衛生活動」に関する留意点、取組事例をも示し、その意義を問い直すことに力点を置いて作成を進め、200ページを超える手引書の完成に至った。
この「外国人労働者安全衛生管理の手引き」は、先月より全国の労働局、労働基準監督署の労働基準監督官等の職員に配布され、活用されていると共に、当連合会が受託した「外国人労働者安全管理支援事業」により設けられた「東京労働局外国人特別・相談支援室」内の「安全衛生班(外国人在留支援センター内)」のホームページにも掲載されている。
日本で働いている外国人は2020年時点で172万人とされ、国内の就業人口の2.5%を占めている。先立って独立行政法人国際協力機構(JICA)が示した推計によれば、2030年には419万人、2040年には674万人まで増加すると予想されている。この試算の中では、東京他北関東では就業人口の約10%が外国人労働者に置き換わると。
勿論、現在、多くの技能実習生を送り込んできているベトナム等の国々の国内経済の発展状況により、その数の減少も考えられ、労働力不足が顕在化することも予想されており、外国人労働者の受け入れに係る議論も行われている。
いずれにせよ、俯瞰して観たとき、私達の職場に外国人労働者が居ることは当たり前となっており、更に増えていこうとしている。
前述の「外国人労働者安全衛生管理の手引き」作成に当たり、ある企業を訪問した際、外国人労働者に対するその企業の姿勢に襟を正された。
その企業では、年に1回、全管理者に対し「外国籍の従業員に対する配慮のお願い」と題する書面を配布。また、新たに外国人労働者を雇用した場合は、その配属先の管理者にも同様の書面を。書面には、外国人労働者の日本語能力が充分でないことを前提に、管理者が、また日本人従業員がどのような点に留意すべきかを、具体的に例示し、依頼している。
その中に、次のような一文があった。「日本の価値観を押し付けず文化の違いを理解する」と題し、「それぞれの外国人の価値観を理解した上で、自社の価値観をしっかり説明することが重要です。『ここは日本だから、日本のやり方に従いなさい。』というような指示を受けると、外国人にとって自国の文化、存在自体を否定されたと受け取られてしまうこともあります。『日本では、こういう考えのもと仕事をしないといけない』と説明するのではなく、『私たちの会社はこういう理念のもと仕事をしている』と説明した方が自分事に捉えることができ、しっかりと聞き行動に移してくれることが多いのでのではないでしょうか。まず、外国人労働者の言い分を聞くことが大切といえます」と。
互いの価値観を尊重し、相手の言い分を聞き、その上で仕事に対し真摯に取り組む姿を説明するとの方向性は、外国人労働者に接する際の留意点というよりは、同じ職場で働く者同士としての大切なポイントを示しているように思えてならない。
前述の有識者による検討委員会では、「雇用する側に日本語が未習熟な外国人労働者へのアプローチの仕方、文化の違いに対する理解が不足している」と指摘されたが、外国人労働者の更なる増加が予想される近い将来に目を向けた時、この点に関するそれぞれの職場での取り組みが求められていると言えよう。
私達は、個人として、企業等の組織として、そして国として、他者への思いやりの度量を問われる時代を生きている。
(小太郎)