令和4年8月号会報「東基連」編集後記


夏を詠った好きな和歌を問うと、同僚は平安時代末期の歌人・式子内親王(しょくしないしんのう)の一首をあげた。
「すずしやと 風のたよりを 尋ぬれば しげみになびく 野べのさゆりば」【風雅和歌集402】。『通釈』― 風のたよりが届き、涼しいことよと、そのゆかりを尋ねて行くと、繁みの中で靡いている野生の百合の花に出逢った。―背景に暑い夏を置いているからこそ、涼風の爽やかさが更に増す歌と。
その夏であるが、今夏は熱中症による救急搬送が激増している。当会報の先月号では、東京労働局健康課の「STOP熱中症 クールワークキャンペーン」を掲載。「労務・安全衛生深掘り探訪記」と「ちょこっと用語」では先月号、今月号と2回に渡り、熱中症の危険性と対策の重要性を訴えた。ある程度は予想されていたが、今夏の気温は命に関わる危険レベルに達しているようだ。
格言に「神は細部に宿る」とある。「細かい部分までこだわり抜くことで、全体としての完成度が高まる」と解釈されている。熱中症対策について準備を進め、迎えた8月。本番真っ只中にある今、小さな事象にも敏感に反応していきたい。職場内の微かな違和感をも見逃さず迅速に対応することが、命を守る重要な武器となろう。上位の職位に在る者は、徹して職場の状況を注視する日々であって欲しい。
水を微細な霧にして噴射するミストシャワー。その霧が、行き交う人々の頭上を舞う光景をよく見かける。水が蒸発する際の気化熱の吸収により、周辺温度の冷却を行うと。あらゆる環境で、夏の暑さを味方に変える工夫を重ねた夏でありたい。
渓流の足首まで濡らす冷たい水の流れ。滝壺から上がるマイナスイオンに充ちた飛沫(しぶき)の煌めき。高原を駆け抜ける爽やかな涼風。暑いからこそ感じる、夏の輝きを大切にしながら。
小太郎