令和8年5月号会報「東基連」編集後記

五月の風に誘われて、初めて「旧碓氷峠 見晴台(きゅううすいとうげ みはらしだい)」を訪れた。ガイドブックを頼りに「軽井沢赤バス」に乗り込む。旧軽井沢銀座通りの先の峠道を新緑に圧倒されながら進むと、壮大な山々を一望に見渡せる標高1200メートルに位置するパノラマスポットに。南東に妙義連峰、西に浅間山。八ケ岳、南アルプスも。この見晴台の中央を長野県と群馬県の県境が走り、県境を示す大きな標識が。
近くには、これもガイドブックで知った「峠のちから餅」で有名なお茶屋さん。旧中山道の碓氷峠の頂上に建つ創業350年のお店。店内を長野・群馬両県の県境が通っていることでも知られる。圧巻は、お店のテラス席から見る新緑の風景。僅かに残った桜花も含め、鮮やかな新緑の若葉達から瑞々しいエネルギーが。案内役のガイドブックに感謝し、もちもちの餡や胡桃のちから餅を頬張った。
さて、本号では「令和8年度 東京労働局行政運営方針」の概要を掲載した。この方針には「働く人と職場の未来のために TOKYO2026」との副題が。冒頭に「地域や国民からの期待に応えていくためには、四行政分野の雇用・労働施策を総合的、一体的に運営していく必要がある」と。写真・図表等を多く使用し、分かり易く纏めた「東京の労働行政Profile2026」も発表され、どちらも東京労働局のHPから確認できる。
東基連では、本年度の「労務・安全衛生管理連続セミナー」の第1回のテーマに、この行政運営方針を取り上げた。サブタイトルに「今年度はどのような課題を巡って行政を進めるのか」を掲げ、労働行政のガイドブックとも言える「行政運営方針」から、他省庁の動向も踏まえ、その傾向と対策を読み解く内容。開催日は5月29日他。申し込みは東基連のHPから。
「旧碓氷峠 見晴台」からの眺望のように、令和8年度の労働行政を一望に俯瞰し解説する本セミナー。働く人と職場のより良き未来へ繋げる機会として頂ければと願う。
       
(小太郎)№52

令和8年4月号会報「東基連」編集後記

舞台は整っていた。「童謡ふるさと館」(群馬県みどり市)前庭の大きな枝垂れ桜は満開。風に揺れる桜色の花びらを透かして見える青空と白い雲。飛花落花の中、枝垂れ桜の下は豪奢な花弁の絨毯。そこに据えられたテーブルには、ユニフォーム姿の笑顔の女性が五人。そして、中央には車椅子の高齢の女性が。
楽しそうに歓談していた彼女らは、高齢の女性に向かうと声を合わせて歌いだした。「♪Happy birthday to you, Happy birthday to you, Happy birthday dear,YOSHIKO, Happy birthday to you♪」。「よしこさん! 93歳の誕生日、おめでとう!」。桜色に染まる舞台で演じられた、介護施設職員による心尽くしのお祝いの会。笑顔満開のおばあちゃん。偶々(たまたま)居合わせた私達。たった二人の観客だったが、心からの拍手を送った。
先月の3日、「TOKYO 介護施設 SAFE協議会」が開催された。東京労働局・健康課は「介護施設の労働災害防止」について現状等の報告を。更に、14次防でも目標が設定されている腰痛予防対策「ノーリフトケア」※について、有識者から講演が行われた。
その中で、「看護や介護に関わる人の腰痛を職業病としてあきらめない」との言葉が心に残った。「医療や介護の顧客は、国民全体である」とも。労働基準行政は「(介護施設)職員の幸せのための安全アクション」を打ち出している。この取り組みは、職員のみならず国民全体の幸せに繋がろう。
この4月、もう一度「童謡ふるさと館」の咲き誇る枝垂れ桜を訪ねてみよう。職員と利用者による、桜色に染まる舞台が繰り広げられているかもしれない。多くの施設で懸命に介護に携わる職員の方々。深い敬意を捧げ、何らかの形で関わりを持ち続ける私でありたい。
(小太郎)№51
※【ノーリフトケア】介護を行う際に介助者の力だけで被介護者を「持ち上げない・抱え上げない・引きずらない」介護方法。リフトの利用などの機械化、スライディングシートなどの移乗用具の活用など、介助者と被介護者双方の安全と負担軽減を図るケア。

令和8年3月号会報「東基連」編集後記

若い頃に痛めた右膝の古傷が、この冬の寒さのせいか痛み出した。気付いた家族が心配して杖を用意。まだ杖を使う歳でもあるまいと思ったが、これが殊のほか調子が良い。膝への負担を減らしてくれるだけでなく、歩行時の安定感が倍増。これこそが労働安全衛生でいう補助機器の導入かと得心した。
それはさておき、杖を使うようになって、周囲の人々の温かさを改めて感じるようになった。建物へ入る時など、前の人がさりげなくドアを押さえ待っていてくださる。エレベーターの乗降でも、私を最優先にとの同乗の方の配慮が窺える。街並みを歩む際も、追い抜いていく人々から、私への気遣いが感じられる。そう、杖を目にした時、人々の内面から優しさと労(いたわ)りの思いが放たれ、その思いが私を包み込んでいくかのよう。
改正労働安全衛生法第62条の2に基づく「高年齢者の労働災害防止のための指針」が令和8年4月1日から施行される。事業者に努力義務を課すこの指針については、本号の「桃樹の『労務・安全衛生深掘り探訪記』」で詳述したが、高年齢者の特性に配慮した作業環境の整備等が求められる。
その背景には、「高齢社会対策要綱(令和6年9月13日閣議決定)」で指摘された「年齢に関わらず、それぞれの意欲や能力に応じて(中略)その能力を十分に発揮できる環境を創っていく重要性がますます高まっている」との考え方がある。高年齢者に対する様々な施策が展開されるが、その基底部には高年齢者を守ろうとの思いがあろう。
電車に乗ると、杖に気付いた人がさっと席を譲ってくださる。一旦は断るが、ご厚意に甘えさせて頂くことも。ある時など外国人の青年が席を立つと同時に隣席の青年も立ち上がり、二人が私に座るようにと。席を譲ってくださったある女性は、電車を降りる際に「お大事にしてください」と。私達は周囲の人を思い、そして思われる世界に生きている。
                           
(小太郎)№50

令和8年2月号会報「東基連」編集後記

ある建設会社の安全衛生担当者から、防波堤の設置について教えて頂いた。現在は堤体にケーソン(コンクリート製又は鋼製の箱型構造物)を採用した防波堤が一般的になっていると。ケーソンの製作・進水方式は数種類あるが、例えば東京の離島の場合、東京湾の桟橋に浮ドックを接岸させ、その浮ドックの中でケーソンを製作。完成後、浮ドックを沈めケーソンを海面に浮かべ、その状態で湾内に仮係留。穏やかな天候の日を選び、引船で曳航し東京湾から太平洋に出て御蔵島、八丈島などの島に向かう。煌めく大海原を進む船。写真や図面を示されながらの説明に引き込まれ、心は東京湾から外洋に飛んだ。
一方、防波堤を設置する予定地では、基礎捨石と呼ばれる1個の重量が100~200㎏にも及ぶ丸い石を投入。海底に潜った幾人もの潜水士が、数百個の基礎捨石を人力で平らに均していく。到着したケーソンはそこに沈められ、砂や割石などの中詰材を投入し海底に固定。ケーソンの上部にコンクリートを打設し、これを幾つも並べて防波堤を完成させると。ここで現場での苦労話をとお訊きしたが、担当の方は困ったように微笑まれ口をつぐまれた。
業界団体は災害事例集(※)を編んでいる。「鋼管を水中切断中、可燃性ガスに引火し爆発」。「係留ロープが外れ作業員に激突」。「基礎捨石均し作業に当たった潜水士が潜水病を発症」。過去の被災事例を真摯に受け止め、今後の防止対策に活用と。
厳寒の2月を迎えた。あの時、苦労話をとのお願いに、困ったように微笑まれた担当の方の姿が浮かぶ。どんな仕事にも、言葉で表現できない、筆舌に尽くせぬ労苦がある。そして、その労苦が社会を支えている。ある企業は「歩んだ軌跡が未来(あした)をつくる」とのメッセージを発信している。この言葉をお借りすれば、働く私達一人ひとりの軌跡が、次の社会を、未来をつくっていく。厳寒の2月。ご安全に!
(小太郎)№49
※(一社)日本建設業連合会編「海洋工事災害事例集」