秩父天然氷の蔵元が営む「かき氷専門店」を友人と訪ねた。高さ20センチ以上のフワフワの真っ白なかき氷。天然氷は結晶が大きく、ふわっと削れるのが特徴。そっとスプーンで掬い口に運ぶと、氷は一瞬で溶け、身体中が冷え渡る。厳寒の冬、山間の製氷池に清冽な伏流水を引き入れ、自然のままに凍らせる。切り出された天然氷は、1年を通し多くの人々を癒してくれる。
かき氷を味わうと思い出す。幼い夏の日、家族総出の大掃除。家具を動かして一枚一枚畳を上げ、真夏の太陽のもと庭に運び出して干す。汗が噴き出し、タオルで流れる汗を拭う頃、父が家庭用のかき氷機でガリガリと氷をかき始め、皆にふるまう。世界最高峰の山の名前が付いた、このかき氷機を買ってきたのも父。決して裕福とは言えなかった我が家の宝物。汗だくになりながら、幼いなりに一生懸命に働いた私には、何にも優る最高のご褒美だった。
さて、今年の夏である。環境省は4月24日から「熱中症特別警戒アラート」等の運用を開始した。近年の気候変動等の影響により、熱中症による救急搬送が数万人を超え、死亡者数も高い水準で推移している状況を踏まえ、気候変動適応法を改正しての取り組み。東京労働局でも、健康課を中心として「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」をスタートさせた。各職場でも、この夏の状況を凝視し、熱中症対策の工夫を重ね、一人も取り残さず無事に乗り越える夏に。
あの夏の日。父は、どんな思いでかき氷機のハンドルを回したのだろうか。もう尋ねることもできないが、かき氷には家族への思い遣りが満ちていた。周囲の人々への思い遣り。職場の災害防止の根底にもあるこの気持ちを、大切にする夏でありたい。
(小太郎)