パキスタンのイスラマバードに駐在している友人から、「日本への異動の辞令が出た。」との連絡が。令和2年に日本を離れ、タイのバンコクに赴任。隣国のミャンマーでは、翌年にクーデターが発生。そして、令和4年にパキスタンに異動した。時折届くLINEからは、現地スタッフと共に活躍している姿が窺えた。送られてきた写真には、現地の人々に囲まれ顎髭を蓄えた姿や、漸く訪れたというカラコルム山脈のK2も。
私もまた、彼の無事を祈りながら四季の写真を送ってきた。イチゴ狩り。桜並木。五月の鯉のぼり。大輪の花火。錦秋の紅葉。東京の突然の大雪。その中には「檜葉(ひば)」の写真も。檜葉は檜(ひのき)科に属し、別名は「ヒノキアスナロ」。四国、九州に分布する「アスナロ」が、寒い北の地方で育つように変種したもの。建築材の中でも耐朽性に優れ、1124年に上棟された中尊寺金色堂にも使用されている。
長い人生である。大変な業務を担当することもある。思いとは異なる仕事に就くことも。そんな時は一人で抱え込まず、まずは信頼できる人に思いの丈をぶつけてみよう。何でもいい。上手に話せなくてもいい。ともかく心の内を聞いて貰おう。人生という劇の脚本を書くのも、演じるのも自分自身。どのような展開になっても、振り返ってみたとき、自身を更に高める方向へ歩み出しているに違いない。檜葉が北国の寒さの中で、高い耐朽性を得てきたように。
帰国する彼の新たな赴任地は、中部地方とか。この地の長良川では「鵜飼い」が行われている。漆黒の闇の中、鵜舟の篝火に照らされ浮かび上がる鵜匠と鵜。幻想的な絵巻物の如き世界。仲秋の一夜、揺れる舟の上で、涼やかな川風に吹かれながら、一献酌み交わす一幕を刻みたい。人生の劇はこれからも続く。
(小太郎)