令和6年8月号会報「東基連」編集後記

万緑の山々に囲まれ、山間(やまあい)を縫うように流れる神流川。この清流に沿う群馬県上野村の集落の傍らに、慰霊の園がある。昭和60年(1985年)8月12日に発生した日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故では、520名の方が犠牲になられた。ここ慰霊の園には、合掌を模(かたど)った慰霊塔と納骨堂が建てられ、慰霊塔を取り囲むように半円形に犠牲者の氏名を彫り込んだ石碑が。年に数回訪れるが、氏名を読み進むうちに、いつもやり場のない怒りと哀しみが込み上げてくる。
39年前のあの衝撃は忘れられない。前日の8月11日の夕刻、妻は生後6か月の長男を抱き、羽田空港から大阪伊丹空港へ向かう日航機に乗っていた。職場の先輩のお父様が事故機に搭乗し、犠牲になられたとの話も伝わってきた。誰もが他人事では無いと、テレビ・新聞等の報道に噛り付いた。忘れられない。忘れてはならない。 
今年の1月、羽田空港で日航機と海上保安庁の航空機が衝突。海保機の乗員5名の方々が亡くなられた。日航機の乗客乗員379人は全員脱出。様々な論評があったが、「8・12連絡会」の事務局長を務める美谷島邦子さんが、海保機の乗員の死を悼んだうえで、日航機の乗客乗員全員が避難できたことについて、「日頃の訓練、命を守る意識の賜物だと思う」と述べた言葉が印象に残っている。
日本航空では「三現主義」に基づく取り組みを進めているという。現地(事故現場)に行き、現物(残存機体、ご遺品等)を見て、現人(事故に関わった方)の話を聞くことで、物事の本質が理解でき、意識の奥底から安全の重要性が啓発されると。美谷島さんの言う「命を守る意識」は、このような教育・訓練から育まれたものであろうか。
私達の労働現場には、ハラスメント、過重労働、不安全な作業環境、有害物など危険な事象は幾つも存在している。これらが命を脅かすものであると、意識の奥底から認識し、「命を守る意識」を持って立ち向かってゆくことを確認する8月としたい。
  (小太郎)