令和8年8月号会報「東基連」編集後記

「食べる宝石って知っていますか?」と知人に訊かれたのは数年前のこと。「食用の鬼灯(ほおずき)のことです」との彼の言葉が、いつまでも心に残っていた。旧中山道の望月宿がある信州・佐久望月に、まるで宝石のような香り高い食用の鬼灯を栽培している農家があると。昨年の9月、佐久平を訪れた際に思いきって訪ねてみた。約束も予約もない突然の訪問でご迷惑をお掛けしたが、親切にお話を聞かせてくださった。
まだ寒い2月に1ミリ程度の小さな種を蒔くこと。その種が収穫時期の9月には2メートルもの高さの幹に育つこと。その幹から1粒1粒丁寧に手摘みで収穫すること。見せて頂いた鬼灯は、風船にも提灯にも見える大きく膨らんだガクと、その中の可愛らしいオレンジ色の実。ガクを剥いて実を口に含むと、絶妙な酸味と甘味。なるほど、まさに食べる宝石。絞ったオレンジ色のジュースは飲む宝石。ここに至るまでの労苦を想像すると、いや増して感謝の念が湧いてきた。
働き方改革関連法の施行後5年を目途とした検討結果を踏まえ、改正された「同一労働同一賃金ガイドライン」が令和8年10月に施行される。本ガイドラインの「基本的な考え方」には、原則となる考え方、具体例等が示されている。その上で、「示されていない待遇や、具体例に該当しない場合であっても、(中略)労使により、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる」とされている。本ガイドラインの目的は、不合理と認められる待遇の相違等の解消を目指すもの。目的を念頭に置いた洞察力の発揮が求められよう。
サン=テグジュペリは語る。「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」(星の王子さま)。不合理と認められる待遇の相違かどうかを凝視した議論が待たれる。
鬼灯の1ミリの種が2メートルの高さに育ち、宝石のような香り高い実を結ぶ。今回の改正を機に行われる議論。宝石とも謳われる鬼灯の実のような、素敵な職場へと向かう一歩となって頂ければ。
(小太郎)№55
【参考】百笑農房(長野県佐久市望月)ホームページ