令和8年10月号会報「東基連」編集後記

労働基準監督署に勤務していたとき、ある残業手当不払い事案を担当した。新技術の開発に成功したベンチャー企業。業績は拡大を続け、上場も控えていた。事実関係を調べ、法令違反を確認。創業者でもある代表者にお会いし、是正をお話した。代表者は次のように述べた。「どこの会社でもやっていること。知り合いの大企業なども同じだ。その会社の担当者を紹介するから、社会の現実を学んできたらどうか」と。説明を重ね支払いをお話したが是正は図られず、最終的には地検に書類送検。その過程で是正・改善された。
先輩から「残業手当を支払わなければならない理由は何か?」と質問された。「法律で定められているから」としか答えられない私に先輩は語った。「労基法で定められた同じ条件のもとで行われている経済活動。ある会社は法律を守り残業手当を支払う。ある会社は支払わず利益をあげる。そんな不公平なことが罷(まか)り通る社会であっていいのか」と。
昨今、「法の支配」の重要性が語られている。この理念は、どこか遠いところにあるものではない。私たちの日々の生活の中にある。法令遵守が社会の安定・発展の基盤となり、人々の幸福に繋がっていることは確かな事実。当連合会の定款には、「労働基準法等の普及等を行うことにより、労働者の福祉の向上と産業の健全な発展に寄与することを目的とする(要旨)」とある。
当連合会の会員企業・団体数は3400。この数字は決して多いとはいえない。しかし、同じ目的を共有する3400法人。「法の支配」の理念を尊重する私達の存在は、小さくとも社会の安定・発展のための礎の一つであろう。先日、嬉しく感じることがあった。当連合会のある支部の会員名簿に、冒頭に紹介した企業名が掲載されていた。入会の経緯は分からないが、共に歩むメンバーがまた1社加わった。
№57(小太郎)